Makerプロトコル:MakerDAOの複数担保型Dai(MCD)システム

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概要

複数担保型Dai(MCD)システムとも呼ばれるMakerプロトコルにより、ユーザーは「Makerガバナンス」によって承認された担保資産を活用して、Daiを発行できます。Makerガバナンスとは、コミュニティが構築および運営する、Makerプロトコルのさまざまな側面を管理するプロセスのことです。Daiは、米ドルにソフトペッグされた、担保に裏付けられた公平な分散型暗号通貨です。 Daiはボラティリティが低いためハイパーインフレに耐性があり、場所を問わずすべての人に経済的自由と機会を提供します。

このホワイトペーパーでは、イーサリアムブロックチェーン上に構築されたプロトコルについて分かりやすく説明します。技術的知識があり、システム全体の詳しい説明についてご覧になりたいユーザーの方は、MakerドキュメンテーションポータルのMakerプロトコルの概論をご覧ください。

MakerDAOについて MakerDAOはイーサリアムブロックチェーン上のオープンソースプロジェクトで、自律分散型組織1であり、2014年に設立されました。このプロジェクトは、ガバナンストークンであるMKRを保有する世界中の人々によって管理されています。エグゼクティブ投票やガバナンス投票などの科学的なガバナンスシステムを通して、MKR保有者はMakerプロトコルとDaiの金融リスクを管理し、その安定性、透明性および効率性を確保しています。MKRの投票における影響力は、投票コントラクトのDSChiefでMKR投票者がステークしているMKRの金額に比例します。つまり、投票コントラクトにロックされているMKRトークンが多いほど、投票者の意思決定力が大きくなります。

Makerプロトコルについて イーサリアムブロックチェーン上に構築されたMakerプロトコル2で、ユーザーは暗号通貨を生成することができます。Makerプロトコルは現在、Daiステーブルコイン、担保型のMaker Vault、オラクル、および投票で構成されています。MakerDAOは、MKR保有者の議決権を通じて主要なパラメーター(例:安定化手数料、担保タイプや担保比率など)を決定することで、Makerプロトコルを管理しています。

Makerプロトコルは、イーサリアムブロックチェーン上で最大の分散型アプリケーション(dapp)の1つであり、幅広く普及した最初の分散型金融(DeFi)アプリケーションです。

Maker Foundationについて グローバルなMakerコミュニティの一部であるMaker Foundationは、多数の外部パートナーと協力してMakerプロトコルを構築しローンチしました。現在、MakerDAOコミュニティと協力してプロジェクトの分散化されたガバナンスを立ち上げ、完全な分散化に向けて推進しています。

Dai Foundationについて Dai Foundationはデンマークに拠点があり、Maker Foundationから独立して自治を行っています。商標やコードの著作権などのMakerコミュニティの重要な無形資産を保護するために設立され、その権限を決定づける客観的かつ厳格な規則に則ってのみ運営されます。Dai Foundationの目的は、Dai Foundation信託証書に記載されているとおり、Makerプロトコルで技術的に分散化できないものを保護することです。

概論

2015年に始まったMakerDAOプロジェクトは世界中の開発者とともに運営され、コード、アーキテクチャ、およびドキュメンテーションの最初のイテレーションに取り組んでいます。2017年12月、最初のMakerDAO公式ホワイトペーパーが発行され、従来のDai(現在のSai)ステーブルコインシステムが発表されました。

そのホワイトペーパーでは、担保付債務ポジション(CDP)という独自の スマートコントラクトスマートコントラクトとは、ネットワーク内で特定のアクションやルールを実行するコンピュータープログラムです。スマートコントラクトは基本的に中央権力ではなくコードに従います。 を通じてイーサリアム(ETH)を担保とし、ステーブルコインシステムを使用して、Daiを生成する方法を説明していました。 ETHがステーブルコインシステムで受け入れられる唯一の担保資産であることから、生成されるDaiは単一担保型Dai(SCD)、またはSaiと呼ばれました。またそのホワイトペーパーには、ETHに加えて複数の担保資産タイプをサポートするためにシステムをアップグレードする計画も記載されていました。当時の計画は2019年11月に現実のものとなりました。

現在Makerプロトコルと呼ばれているDaiステーブルコインシステムは、MKR保有者によって承認されたイーサリアムベースの資産を担保として受け入れており、MKR保有者は、各担保資産に対応するリスクパラメーターにも投票しています。投票は、Makerの分散型ガバナンスプロセスにとって重要な要素です。

複数担保型Dai(MCD) へようこそ。

MCDへの信頼

ブロックチェーンテクノロジーは、機能不全の中央集権的な金融システムに対して高まっている国民の不満や不信を緩和する、かつてない機会を提供しています。コンピューターのネットワーク全体でデータを共有するこのテクノロジーによって、個人の集団は中央による管理ではなく透明性を享受することができます。その結果、公平で、透明性のある、非常に効率的でパーミッションレスのシステムが実現し、そのシステムによって、現在の世界的な金融構造および通貨体制が改善し、公益のために役立つことができます。

ビットコインは、このような目標を念頭に創造されました。しかしながら、ビットコインは様々なレベルで暗号通貨として成功していますが、交換手段として理想的なものではありません。供給量が固定され、投機的な性質のためにボラティリティが高くなり、それが主流暗号通貨としての普及を妨げているためです。

一方Daiステーブルコインは、ボラティリティを最小限に抑えられるように設計されているため、まさにビットコインがうまく機能しない場面で成功を収めることができます。米ドルにソフトペッグされた、公平で担保に裏付けられた分散型暗号通貨であるDaiの価値は、その安定性にあります。

2017年に単一担保型Daiがリリースされて以来、ステーブルコインを採用するユーザーは劇的に増加し、DeFi(分散型金融)ムーブメント拡大を促進する分散型アプリケーションの基礎的要素となりました。Daiの成功は、価格の価値を維持し通貨のように機能するよう設計された暗号通貨であるステーブルコインを求める、業界の広範囲にわたるムーブメントの一翼をになうものです。

たとえば2019年2月、JPモルガンは米国の銀行で初めて、1米ドルに相当するデジタルコインを作成しテストを行いました3。暗号通貨業界の成長にともない、他の銀行、金融サービス企業、さらには政府や金融分野以外の大規模組織までもが安定したデジタル通貨(たとえば中央銀行のデジタル通貨)を生成することになるでしょう。その一例として、2019年6月にFacebookは「実物資産の準備金によって完全に裏付けされる、安定性のあるデジタル暗号通貨」であるLibra4の計画を発表しました。しかし、このような計画ではブロックチェーンテクノロジーが提供する本質的な価値、すなわち影響力を悪用する可能性のある中央権力や管理者のいない、全世界で使える共通インフラストラクチャーという価値が損なわれます。

Makerプロトコルとその機能の概要

Makerプロトコル

Makerプロトコルは、イーサリアムブロックチェーン上で最大の分散型アプリケーションのひとつです。これはMaker Foundation内の開発者、その外部パートナー、およびその他の個人や団体を含む多種多様な貢献者達によって設計され、大幅な普及が見込まれている最初の分散型金融(Defi)アプリケーションです。

Makerプロトコルは、ガバナンストークンであるMKRを保有する世界中の人々によって管理されています。MKR保有者は、エグゼクティブ投票やガバナンス投票などの科学的なガバナンスのシステムを通して、MakerプロトコルとDaiの金融リスクを管理し、その安定性、透明性および効率性を確保しています。 投票コントラクト投票コントラクトにより、MKRの所有者は自身がステークしているMKR全量を使用して投票できることが保証されています。 にロックされている1MKRが1票に相当します。

Daiステーブルコイン

Daiステーブルコインは、米ドルにソフトペッグされた担保に裏付けられた公平な分散型暗号通貨です。Daiは 暗号通貨ウォレット 暗号通貨ウォレットは、暗号資産の管理および分散型アプリケーション(dapp)の連携に使用されるツールです。暗号通貨ウォレットでは、ユーザーは自身が保有するコインやトークンのリストの閲覧、残高や取引履歴の確認、および暗号通貨の送付を行うことができます。 またはプラットフォーム内で保有され、イーサリアムをはじめとする一般的なブロックチェーン上でサポートされています。

Daiは簡単に生成、アクセスおよび使用することができます。ユーザーは、Makerプロトコル内にある Maker VaultMaker Vaultを使用すれば、ロックされている資産を担保にDaiを簡単に生成できます。ユーザーは、Oasis BorrowダッシュボードまたはVaultを操作管理できる、その他多くのユーザーインターフェースのいずれかを使用してVaultを開くことができます。 に担保資産を預け入れることでDaiを生成します。 このようにしてDaiは流通し、ユーザーは流動性にアクセスすることができます。ブローカーや取引所から購入するか、単に支払いとして受け取ることによってDaiを取得することもできます。

いったん生成、購入または受領されたDaiは、他の暗号通貨と同様に使用できます。つまり、他者への暗号通貨の送付や、商品やサービスの決済としての使用、さらには Dai貯蓄率Dai貯蓄率(DSR)を使用すると、すべてのDai保有者は、自身のDaiをDSRコントラクトにロックすることで、自動的かつMakerプロトコル上で貯蓄を増やすことができます。DSRは、暗号通貨のトレーダー、スタートアップ、および既存の企業など、Dai保有者に多くの利便性を提供しています。 (DSR)と呼ばれるMakerプロトコルの機能を使って貯蓄として保有することもできます。

流通しているすべてのDaiは、担保価値がDaiの債務価値よりも高い過剰担保に直接裏付けられており、Daiの取引は全てイーサリアムブロックチェーン上で公開されています。

通貨に似たDaiの機能

一般的に、通貨には4つの機能があります。

  1. 価値貯蔵手段
  2. 交換手段
  3. 価値尺度
  4. 繰延支払いの基準

Daiには、これらの機能を果たすために設計された性質や使用事例があります。

価値貯蔵手段としてのDai

価値貯蔵手段とは、長期にわたって価値を大幅に下落させることなく維持している資産のことです。Daiはステーブルコインであり、ボラティリティの高い市場でも価値の貯蔵手段として機能するように設計されています。

交換手段としてのDai

交換手段は、価値の基準を表すものであり、商品やサービスの販売、購入、または交換(取引)を円滑に進めるために使用されます。Daiステーブルコインは、あらゆる種類の取引を目的として世界中で使用されています。

価値尺度としてのDai

価値尺度とは、商品やサービスの価格設定に使用される価値の測定基準です(例:米ドル、ユーロ、日本円)。現在のDaiの目標価格は1米ドル(1Dai=1USD)です。Daiは、オフチェーンの世界では価値の測定基準として使用されていませんが、Makerプロトコルおよび一部のブロックチェーン分散型アプリケーション内では価値尺度として機能しており、そこではMakerプロトコルの会計処理または分散型アプリケーションサービスの価格設定に、米ドルのような法定通貨ではなくDaiが使われています。

繰延支払いの基準としてのDai

Daiは、Makerプロトコル内で債務の返済に使用されます(たとえば、ユーザーはDaiを使用して安定化手数料を支払い、Vaultを閉じます)。このような利点から、Daiは他のステーブルコインと区別されます。

担保資産

Makerプロトコルでは、Maker Vaultに預けられた担保資産を使用してDaiを生成および裏付けし、安定性を保っています。担保資産は、MKR保有者がプロトコルに受け入れると投票で決定したデジタル資産です。

Makerプロトコルでは、Daiを生成するためにMKR保有者によって承認されたイーサリアムベースの資産ならどれでも担保として受け入れられます。MKR保有者は、受け入れた各担保ごとに対応する特定のリスクパラメーターも承認する必要があります(たとえば、安定した資産ほどリスクパラメーターは緩やかになる一方で、リスクの高い資産ほどリスクパラメーターは厳しくなる可能性があります)。リスクパラメーターの詳細については、下記をご覧ください。MKR保有者が行う様々な決定は、Makerの分散型ガバナンスプロセスを通じて行われます。

Maker Vault

承認されたすべての担保資産を活用して、Maker Vaultと呼ばれるスマートコントラクトを通じてMakerプロトコルでDaiを生成できます。ユーザーは、Oasis Borrowコミュニティによって構築されたさまざまなインターフェイスなど、各種のユーザーインターフェイス(ネットワークアクセスポータル)を使用してMakerプロトコルにアクセスし、Vaultを作成できます。Vaultの作成は複雑ではありませんが、Daiを生成すると、Vault内で利用およびロックされた担保を引き出すためには、 安定化手数料 安定化手数料は、債務が返済または全額清算されたとき、すべてのVault所有者が支払う手数料です。これは、既存のVaultの債務に加えて年利で計算されます。安定化手数料はDaiで支払わなければいけません。 と共にDaiを返済する義務が生じます。

Vaultは本質的にノンカストディアルです。ユーザーはVaultやMakerプロトコルと直接関わり、各ユーザーは、担保の価値が必要最低レベル(以下で詳細に説明する清算率)を下回らない限り、預け入れた担保を完全にかつ独立して管理できます。

Maker Vaultの操作

  • ステップ1:Vaultを作成し担保する

    ユーザーは、Oasis BorrowポータルまたはInstadapp、Zerion、MyEtherWalletなどのコミュニティが作成したインターフェースを介して、Daiの生成に使用される特定の担保タイプの担保額を出資してVaultを作成します。一度資金供給が行われると、Vaultは担保されていると見なされます。

  • ステップ2:担保されたVaultからDaiを生成する

    Vaultの所有者は取引を開始し、Vault内で自身の担保をロックすることと引き換えに特定の金額のDaiを生成するために、自身の非ホスト型の暗号通貨ウォレットでその取引を承認します。

  • ステップ3:債務と安定化手数料を返済する

    Vault所有者が担保の一部またはすべてを取り戻すには、自身が生成したDaiを返済または全額返却することに加え、発行済みのDaiに継続的に発生する安定化手数料を支払う必要があります。安定化手数料はDaiでのみ支払うことができます。

  • ステップ4:担保を引き出す

    Vault所有者は、Daiを返却して安定化手数料を支払うと、自身の担保をすべてまたは一部引き出して自身のウォレットに戻すことができます。Daiが全額返却されてすべての担保が引き出されると、所有者が新たに預け入れを行うまでVaultは空の状態になります。

重要なこととして、預けられた各担保資産にはそれぞれのVaultが必要です。そのため、担保タイプと担保のレベルが異なる複数のVaultを所有するユーザーもいます。

リスクの高いMaker Vaultの清算

全ての未払い債務の価値( 目標価格Daiの目標価格は1米ドルで、1:1で米ドルにソフトペッグされています。 で評価されるDaiの未払い額)をカバーするのに十分な担保がMakerプロトコルに常にあるようにするために、(Makerガバナンスが規定したパラメーターによって)リスクが高すぎると判断されたMaker Vaultは、自動化されたMakerプロトコルのオークションを通じて清算されます。 プロトコルは、 清算率清算率は、Vaultが清算の影響を受けやすくなる担保債務比率です。 をVaultの現在の担保債務比率と比較した後に清算を行うかを決定します。各Vaultタイプには独自の清算率があり、各比率は特定の担保資産タイプのリスクプロファイルに基づいてMKR投票者により決定されます。

Makerプロトコルのオークション

Makerプロトコルのオークションメカニズムにより、担保の価格情報がない場合でも、システムでVaultを清算することができます。清算時には、Makerプロトコルは清算済みのVaultの担保を取得し、内部の市場ベースのオークションメカニズムを使用して売却します。これが 担保オークション担保オークションでは、清算されたVaultの担保に対してDaiで支払います。受け取ったDaiは、Vaultの未払いの債務および清算ペナルティを賄うために使用されます。 です。

担保オークションから受け取ったDaiは、特定のVaultの担保タイプに対してMKR投票者が設定した 清算ペナルティ清算ペナルティとは、Vault所有者が自身のVaultが清算されたときに支払う手数料です。 の支払いなど、未払いのVaultの負債を賄うために使用されます。

Vaultの負債と清算ペナルティ全体を賄うために十分なDaiが担保オークションで入札された場合、売却する担保を最小限にするために担保オークションは 逆担保オークション逆オークションでは、キーパーは一定額のDaiに対して減少していく、受け取りたい担保に入札します。このプロセスは担保オークションの一部分で、担保に対してVaultの未払いのDaiを賄うためにオークションに興味を持っている人が十分にいる場合にのみ開始されます。これらの負債を賄うのに十分なDaiが入札されると、逆担保オークションが開始されます。逆担保オークションの目的は、Vault所有者ができるだけ多くの残りの担保を回収できるようなプロセスを提供すると同時に、未払いのDaiの全負債が最初に支払われるようにすることです。 に切り替わります。残りの担保は元のVault所有者に返却されます。

担保オークションがVaultの未払いの負債を賄うのに十分なDaiを調達できない場合、赤字はプロトコルの債務に変換されます。プロトコルの債務は、MakerバッファーMakerバッファーには、担保オークションで受け取ったDai(清算ペナルティを含む)とVaultから発生した安定化手数料が含まれます。MakerバッファーにあるDaiの総計が(Makerガバナンスで決定された)特定の数値に達すると、余剰分は余剰オークションにかけられ、余剰オークションではMKRが購入され総供給からMKRが取り除かれます。余剰額とは、担保オークションでの未払いのVaultの負債やDSRの金利などシステムの債務などのシステムの債務の総額です。 にあるDaiで賄われます。バッファーに十分なDaiがない場合、プロトコルは 債務オークション債務オークションは、一定額のDaiを得るためにMKRをオークションにかけて、システムの資本を再構成するために使用されます。 を起動します。債務オークション中、システムがMKRを発行し(流通するMKRの量が増加する)、Daiを得るために入札者に売却されます。

担保オークションからの受け取ったDaiはMakerバッファーに送られ、将来の担保オークションで賄えない担保やDai貯蓄率(詳細は後述)の発生に起因するMKRの総供給増加に対するバッファーとして機能します。

オークションや安定化手数料の支払いで得られたDaiの受取額がMakerバッファーの上限(Makerガバナンスによって設定された数値)を超える場合、超過分は 余剰オークション余剰オークションでは、落札者は、安定化手数料からの余剰分のDaiを得るためにMKRを支払います。支払われたMKRは破棄されることで、流通しているMKRの数量が減少します。 を通じて売却されます。余剰オークションでは、入札者はMKRの金額を増やして入札を競い、一定額のDaiを受け取ります。余剰オークションが終了すると、Makerプロトコルは集めたMKRを自律的に破棄することでMKRの総供給量を減らします。

例(担保オークションのプロセス): 大きなVaultが、市場の状況により担保不足になったとします。 オークションキーパーオークションキーパーとは、システムを監視し、Vaultの清算率が破られると清算をトリガーするようMakerプロトコルによって動機づけられている人間または自動ボットです。 が担保不足のVaultの発生を検出し、Vaultの清算を開始することにより、たとえば50ETHの担保オークションが開始されます。

オークションキーパーには、オークションの落札を手伝う 入札モデル 入札モデルは、入札のタイミング、入札頻度および入札価格を決定する背景にある戦略です。 があります。入札モデルには、担保に入札する価格(この例ではETH)が含まれます。オークションキーパーは、一定額の担保に対してDaiの入札額が増加している担保オークションの最初の段階において、入札モデルのトークン価格を入札の基準として使用します。この額は、担保オークションで要求されたDaiの合計価格を表します。

ここで、オークションキーパーがこの一定額を満たすために50ETHに対して5,000Daiを入札したとします。Daiの入札は、 VaultエンジンVaultエンジンはVATスマートコントラクトです。詳細については、https://docs.makerdao.com/other-documentation/system-glossary#vat-vault-engineにアクセスしてください。 から担保オークションコントラクトに転送されます。 担保オークションコントラクトに、システムの債務に加えて清算ペナルティを賄うのに十分のDaiがあれば、担保オークションの第1段階が終了します。

オークションキーパーは、入札モデルで決定された価格に到達するために、担保オークションの第2段階で入札を行います。この段階の目的は、市場が許す限りの担保をVault所有者に返却することです。オークションキーパーの入札は、一定額のDaiと価格が減少しているETHに対し行います。たとえば、この例のキーパーの入札モデルは、1ETHあたり125Daiの入札価格を要求しているため、40ETHに対し5,000Daiを提示します。この入札を行うための追加のDaiは、Vaultエンジンから担保オークションコントラクトに転送されます。入札期限に達し入札が期限切れになると、オークションキーパーは落札を宣言し、落札した担保を集めることで完了した担保オークションを確定します。

主要な外部参加者

Makerプロトコルには、スマートコントラクト・インフラストラクチャーのほかに、運用を管理する外部参加者が含まれます。この外部参加者にはキーパー、オラクル、グローバルセトラー(緊急オラクル)、およびMakerコミュニティメンバーがいます。キーパーはプロトコルが提示する経済的インセンティブを活用します。オラクルとグローバルセトラーはMKR投票者によって割り当てられたシステムで特別な権限を有する外部参加者です。そしてMakerコミュニティメンバーは個人およびサービスを提供する組織です。

キーパー

キーパーは、分散型システムのさまざまな面で流動性を提供するように、アービトラージの機会によって動機づけられている独立した(通常は自動の)参加者です。Makerプロトコルでは、キーパーはDaiの目標価格(1米ドル)の維持の手助けをする市場参加者で、市場価格が目標価格を上回るとDaiを売却し、市場価格が目標価格を下回るとDaiを購入します。キーパーは、Maker Vaultが清算されると余剰オークション、債務オークション、および担保オークションに参加します。

価格オラクル

Makerプロトコルは、清算を起動するタイミングを知るため、Maker Vault内にある担保資産のリアルタイムの市場価格情報を必要とします。

このプロトコルは、オラクルフィードと呼ばれる広範な個々のノードの集まりから構成される分散型オラクルインフラストラクチャーから内部の担保価格を導き出します。MKR投票者は信頼できるフィードのグループを選択して、イーサリアム取引を通じてシステムに価格情報を配信します。MKR投票者はまた、グループ内のフィードの数も管理します。

大多数のオラクルをコントロールしようとする攻撃者からシステムを保護するために、Makerプロトコルはオラクルから直接ではなく、オラクルセキュリティモジュール(OSM)を介して入力された価格を受け取ります。OSMはオラクルとプロトコル間にある防衛層です。オラクルが危険にさらされた場合、OSMが価格を1時間遅らせることで、緊急オラクルまたはMakerガバナンス投票がオラクルを凍結することができます。緊急オラクルおよび価格遅延期間に関する決定は、MKR保有者が行います。

緊急オラクル

緊急オラクルはMKR投票者によって選択され、ガバナンスプロセスまたは他のオラクルへの攻撃に対する最後の防衛線として機能します。オラクルには 緊急時シャットダウン緊急時シャットダウンには、主に2つの目的があります。緊急時にインフラストラクチャーへの攻撃からMakerプロトコルを保護する最終手段として、またMakerプロトコルシステムのアップグレードを円滑に進めるために使われます。このプロセスは完全に分散化されていて、Makerガバナンスによって管理されています。 を一方的に起動する権限があるので、緊急オラクルは、個々のオラクル(ETHやBATオラクルなど)を凍結することで、多数のユーザーが短期間にMakerプロトコルから自身の資産を引き出そうとするリスクを軽減することができます

DAOチーム

DAOチームは個人やサービスプロバイダーで構成されており、Makerガバナンスを通じて契約されている場合もあり、MakerDAOに特定のサービスを提供しています。DAOのチームメンバーは独立した市場参加者であり、Maker Foundationに雇用されているわけではありません。

Makerガバナンスの柔軟性により、MakerコミュニティはDAOチーム体制を取り入れ、現実世界のパフォーマンスと新たな課題に基づくエコシステムに必要とされるサービスを提供することができます。

DAOチームメンバーの役割の一例としてガバナンスファシリテーターがあり、コミュニケーションのインフラストラクチャーとガバナンスのプロセスをサポートします。またリスクチームメンバーという役割があり、Makerガバナンスをサポートするために金融リスクの研究や、新しい担保のオンボーディングおよび既存の担保の規制に関する提案に取り組んでいます。

Maker FoundationはこれまでMakerガバナンスを立ち上げてきましたが、近い将来、DAOが完全なる管理権を持ち、MKR投票を実施し、様々なDAOチームの役割を果たすと予想されます。

Dai貯蓄率

Dai貯蓄率(DSR)を活用すれば、自身のDaiをMakerプロトコルのDSRコントラクトにロックすることで、Dai保有者なら誰でも自動的かつMakerプロトコル上で貯蓄を増やすことができますOasis Saveポータルまたはさまざまなゲートウェイを介してMakerプロトコルにアクセスできます。ユーザーはDSRを獲得するために最低額を入金する必要はありません。また、いつでもDSRコントラクトから自身のDaiの一部またはすべてを引き出すことができます。

DSRは、Dai保有者が自身の貯蓄から経時的に獲得する金額を決定するグローバルシステムパラメーターです。市場力学の変化によりDaiの市場価格が目標価格から逸脱した場合、MKR保有者はDSRの適切な変更に投票することで価格の不安定性を緩和できます。

  • Daiの市場価格が1ドルを超える場合、MKR保有者にはDSRを徐々に下げる選択肢があり、これにより需要が減り、Daiの市場価格が1 米ドルの目標価格に向かって下がると見込まれます。
  • Daiの市場価格が1ドル未満の場合、MKR保有者にはDSRを徐々に上げる選択肢があり、これにより需要が刺激され、Daiの市場価格が1米ドルの目標価格に向かって上がると見込まれます。

最初のうちは、DSRの調整は毎週のプロセスによって決まり、それに従ってMKR保有者はまず、市場参加者から提供された公開市場データと独自データについて評価および議論を行い、次に調整の必要性について投票を行ます。長期計画にはDSR調整モジュールの実装が含まれます。これは インスタントアクセスモジュールインスタントアクセスモジュールには、DS-Chiefでコンセンサスを得ることなく、Makerプロトコルに直接、制限された変更を加えるためのコンポーネントが含まれています。 であり、DSRおよび ベースレートベースレートは、すべての資産タイプに適用される安定化手数料の一部です(各資産タイプの合計安定化手数料にはベースレートに加えて担保レートが含まれます)。 の両方を直接管理するものです。

このモジュールを使用すると、大きなMKR保有者グループに代わって1人のMKR保有者がDSRを(MKR保有者らによって設定された厳密なサイズと頻度の範囲内で)簡単に調整できます。この計画の背後には、急速に変化する市況への素早い対応を可能にし、エグゼクティブ投票およびガバナンス投票から成る普段のガバナンスプロセスの過剰な使用を回避するという目的があります。

Makerプロトコルのガバナンス

Makerガバナンス内でのMKRトークンの使用

MKRトークンは、Makerプロトコルのガバナンストークンであり、その保有者はMakerプロトコルの変更についての投票を行うことができます。なお、MKR保有者だけでなく、誰でもMKR投票の提案を提出できることをご理解ください。

プロトコルのガバナンス変数に対して投票者が承認した修正は、将来的にすぐには実施されない可能性が高いです。むしろ、投票者がガバナンス・セキュリティ・モジュール(GSM)を有効にすることを選択した場合、最大24時間遅延する可能性があります。この遅延により、MKR保有者は必要に応じてシャットダウンを起動することで、悪意あるガバナンスの提案(たとえば確立された金融方針に反して担保パラメーターを変更する、またはセキュリティメカニズムを無効にする提案など)からシステムを保護する機会を得ることができます。

ガバナンス投票およびエグゼクティブ投票

実際には、Makerガバナンスプロセスには、ガバナンス投票とエグゼクティブ投票が含まれます。ガバナンス投票は、エグゼクティブ投票が行われる前にコミュニティの意見の大まかなコンセンサスを得るために実施されます。これにより、投票プロセス自体を行う前に、コンセンサスによってガバナンスの決定が徹底的に考慮され影響を与えるようになります。エグゼクティブ投票は、システムの状態の変更を承認する(または承認しない)ために行われます。エグゼクティブ投票の例としては、新たに受け入れられた担保タイプのリスクパラメーターを承認するための投票があります。

技術面では、スマートコントラクトが投票タイプをそれぞれ管理します。提案コントラクトは、1つ以上の有効なガバナンスアクションがプログラムされたスマートコントラクトです。実行できるのは1回限りです。実行されると、Makerプロトコルの内部ガバナンス変数への変更がただちに適用されます。実行後、提案コントラクトは再利用できません。

任意の イーサリアムアドレスイーサリアムのコントラクトアカウントは、そのコントラクトコードによって管理されています。コントラクトアカウントは新しい取引を単独で開始することはできません。外部に所有されているアカウントまたは別のコントラクトアカウントからメッセージを受信すると、そのコードを実行して、メッセージの読み取り、書き込み、送信、またはスマートコントラクトの作成ができるようになります。 で、提案コントラクトを有効にできます。次にMKRトークン所有者は、アクティブ提案として選出したい提案に対して承認投票を行うことができます。承認投票数を最も多く得たイーサリアムアドレスが、アクティブ提案として選出されます。アクティブ提案は、Makerプロトコルの内部ガバナンス変数への管理アクセスを取得し、それらを変更する権限を与えられています。

資本再構成におけるMKRトークンの役割

MKRトークンはMakerガバナンスでの役割に加えて、Makerプロトコルの資本再構成リソースとして補完的な役割を果たします。システムの負債が余剰を超える場合、債務オークション(上記参照)を通じてMKRトークンの供給は量を増やし、システムの資本を再構成する可能性があります。このリスクがあるためにMKR保有者は団結し、責任を持ってMakerエコシステムを管理し、過度のリスク負担を回避するよう促されます。

MKR保有者の責任

MKR保有者は、以下の項目を実行するための投票を行うことができます:

  • 新規担保資産タイプを一連の独自のリスクパラメーターと共に追加する。
  • 1つ以上の既存の担保資産タイプのリスクパラメーターを変更する、または1つ以上の既存の担保資産タイプに新たなリスクパラメーターを追加する。
  • Dai貯蓄率を変更する。
  • オラクルフィードのセットを選択する。
  • 緊急オラクルのセットを選択する。
  • 緊急時シャットダウンを起動する。
  • システムをアップグレードする。

MKR保有者は、Makerバッファーから資金を、オラクルインフラストラクチャーや担保リスク管理の分析など、さまざまなインフラストラクチャーのニーズやサービスに対する支払いに割り当てることもできます。Makerバッファー内の資金は、安定化手数料、清算手数料、およびその他の収入源からの収益です。

Makerプロトコルのガバナンスメカニズムは、可能な限り柔軟で、またアップグレードできるように設計されています。コミュニティのガイダンスの下でシステムが成熟すると、理論上は、まとまった提案コントラクトなどの、より高度な形式の提案コントラクトを使用できるようになります。たとえば、1つの提案コントラクトに、安定化手数料の調整とDSRの調整の両方が含まれることがあります。しかしながら、このような変更は引き続きMKR保有者の決断に委ねられています。

Makerガバナンスによって管理されるリスクパラメーター

各Maker Vaultのタイプ(ETH VaultやBAT Vaultなど)には、使用を強制する一連の独自のリスクパラメーターがあります。パラメーターは担保のリスクプロファイルに基づいて決定され、MKR保有者による投票を通じて直接管理されます。

Maker Vaultの主要なリスクパラメーター:

  • 債務上限:単一の担保タイプで作成できる債務の最大限度額です。Makerガバナンスは、すべての担保タイプに債務上限を割り当てます。これはMakerプロトコルの担保ポートフォリオの十分な分散を確保するためです。ひとつの担保タイプが債務上限に達すると、既存ユーザーの誰かがVaultの債務の全部または一部を返済しない限り、追加の債務を作成できなくなります。
  • 安定化手数料:安定化手数料は、Vaultの担保に対して生成されたDaiの額に追加して年利で算出されます。手数料は、Daiのみで支払われ、Makerバッファーに送られます。
  • 清算率:清算率が低いと、Makerガバナンスは担保のボラティリティが低くなると予測し、清算率が高い場合はボラティリティが高くなると予測していることを意味しています。
  • 清算ペナルティ:清算ペナルティとは、清算が発生したときにVault内で生成されたDaiの合計額に加算される手数料です。清算ペナルティは、Vault所有者に適切な担保レベルを維持するよう促すために使われます。
  • 担保オークションの期間:担保オークションの最大期間は、Maker Vaultによって異なります。債務オークションおよび余剰オークションの期間は、グローバルシステムパラメーターです。
  • オークションの入札期間:個々の入札が期限を迎え、オークションを終了するまでの時間。
  • オークションの刻み幅入札者がオークション中に現在の入札額を上回って入札できる最低額。 :このリスクパラメーターは、オークションの早期入札者にインセンティブを与え、既存の入札額をわずかにだけ上回って入札するという悪用を防ぐために存在します。

ガバナンスのリスクとリスク軽減の責任

Makerプロトコルの運用が成功するかは、Makerガバナンスがリスクを軽減するために必要な措置を講じるかどうかにかかっています。リスクの例と、それぞれの軽減策を以下に示します。

悪意ある参加者によるスマートコントラクト・インフラストラクチャーへの悪意ある攻撃

Makerプロトコルの最大のリスクの1つは、悪意ある行為をする参加者で、たとえばデプロイされたスマートコントラクトの脆弱性を発見し、それを使用してプロトコルを破ったり、そこから盗み出すプログラマーです。

最悪の場合、プロトコルで担保として保有されているすべての分散型デジタル資産が盗まれ、回復が不可能になります。

軽減策: Maker Foundationの最優先事項はMakerプロトコルのセキュリティであり、プロトコルの防御に最も威力を発揮するのは 形式的検証形式的検証とは、コードベースが意図した動作と同じ動作を実行するという数学的証明とともに、システムの意図した動作の数学的な仕様の作成することを意味します。意図した動作がそれに一貫しない効果を生み出すという数学的証拠がないため、意図しない副作用を伴いません。 です。Daiのコードベースは、形式的検証をされた分散型アプリケーション初のコードベースでした。

形式的システム検証に加えて、ブロックチェーン業界で最高のセキュリティ組織による契約セキュリティ監査、第三者(独立)監査、およびバグ報奨金が、Maker Foundationのセキュリティロードマップの一部を成しています。形式的検証レポートやさまざまなMakerプロトコル監査について確認するには、MakerのGithubリポジトリにある複数担保型Daiのセキュリティにアクセスしてください。

これらのセキュリティ対策は強力な防御システムを提供しますが、絶対に確実なものではありません。形式的検証を行ったとしても、意図した動作の数学的モデリングが正しくない場合、または意図した動作自体の背後にある仮定が誤っている場合があります。

ブラックスワン事象

ブラックスワン事象は、システムに対するめったにない重大な予想外の攻撃です。Makerプロトコルにおけるブラックスワン事象の事例は以下のとおりです。

  • Daiを裏付ける担保タイプに対する攻撃。
  • 1つ以上の担保タイプの価格の予想外の大幅下落。
  • 高度に連携されたオラクル攻撃。
  • 悪意あるMakerガバナンスの提案。

この潜在的「ブラックスワン」のリストは、すべてを網羅するものではなく、可能性の範囲の把握が目的ではないことにご留意ください。

軽減策: いずれの解決策もフェイルセーフではありませんが、適切なガバナンス(危機的状況下での迅速な対応、よく考慮されたリスクパラメーターなど)と連携していて慎重に設計されたMakerプロトコル(清算率、債務上限、ガバナンスセキュリティモジュール、オラクルセキュリティモジュール、緊急時シャットダウンなど)は、深刻な結果をもたらす潜在的な攻撃の防止または軽減に役立ちます。

予期せぬ価格設定エラーと市場の非合理性

オラクルの価格フィードの問題、および長期にわたってDaiの価格変動を引き起こす非合理な市場ダイナミクスが発生する可能性があります。システムへの信頼が失われた場合、レート調整やMKR希薄化までも極限に達し、それでもなお、市場に十分な流動性と安定性を提供できない可能性があります。

軽減策: Makerガバナンスでは、十分に大きな資本プールが市場のキーパーとして機能するように動機づけられています。このことにより合理性と市場効率を最大化し、大規模な市場ショックを引き起こすことなくDaiの供給を安定したペースで増やすことができます。最終手段として、緊急時シャットダウンを起動して、Daiの請求額を目標価格で設定することにより、Dai保有者に担保を譲渡することができます。

より簡単な解決策としてのユーザーによる放棄

Makerプロトコルは、複雑な分散型システムです。その複雑さの結果として、経験の浅い暗号通貨ユーザーは、使いやすく理解しやすいシステムの方を好んで、このプロトコルを放棄するリスクがあります。

軽減策: Daiを生成したり使用したりするのは、暗号通貨に熱心に取り組む人や、暗号通貨を証拠金取引に使用するキーパーにとって簡単ですが、新規参入者にとってはプロトコルの理解や操作が難しいと感じられるかもしれません。ユーザーが利益を得るためには、Makerプロトコルの基礎となるメカニズムを理解する必要がないようにDaiは設計されていますが、MakerコミュニティやMaker Foundationはドキュメンテーションや多くの資料を絶えず提供することによって、オンボーディングができるだけ複雑にならないようにしています。

Maker Foundationの解散

Maker Foundationは現在、独立した参加者とともに、ガバナンスを円滑にしながら、Makerプロトコルを維持し世界中でその使用を拡大するという役割を果たしています。ただし、MakerDAOが完全に単独でガバナンスを管理できるようになれば、Maker Foundationは解散する予定です。Maker Foundationの解散後にMakerDAOが十分に指揮を執れない場合、Makerプロトコルの将来の健全性が危険にさらされる可能性があります。

軽減策: MKR保有者は、プロジェクトの「段階的な分散化」が完了した後、Maker Foundationの解散に備えるよう奨励されています。さらに、システムの管理が成功すると、ガバナンスのための十分な資金がMakerプロトコルの継続的な維持と改善に割り当てられることになっています。

実験的テクノロジーの一般的な問題

Makerプロトコルのユーザー(DaiおよびMKR保有者を含むが、それに限定されない)は、Makerプロトコルに適用可能なソフトウェア、技術、並びに技術的概念および技術的理論がまだ実証されておらず、技術の中断またはエラーが発生しない保証がないことを理解し、同意しています。技術に欠点、脆弱性、またはバグが含まれている可能性があり、とりわけ、Makerプロトコルおよびその構成部分またはそのいずれかに全面的な障害を引き起こす固有のリスクがあります。

軽減策: 上記の「悪意ある参加者によるスマートコントラクトインフラストラクチャーへの悪意ある攻撃」をご覧ください。軽減策セクションでは、Makerプロトコルが意図したとおりに機能することを徹底するために実施する技術監査について説明しています。

価格安定メカニズム

Daiの目標価格

Daiの目標価格は、緊急時シャットダウンの場合にDai保有者が受け取る担保資産の価値を決定するために使用されます。Daiの目標価格は1米ドル、つまり1:1の比率で米ドルにソフトペッグされています。

緊急時シャットダウン

緊急時シャットダウン(または単にシャットダウン)には、2つの主な目的があります。1つ目は、緊急時にインフラストラクチャーに対する攻撃からMakerプロトコルを保護し、また直接的にDaiの目標価格を執行するための最後の手段として使用されます。「緊急時」には、悪意あるガバナンス活動、ハッキング、セキュリティ侵害および長期的な市場の非合理性が含まれます。2つ目に、シャットダウンはMakerプロトコルシステムのアップグレードを円滑に進めるために使用されます。シャットダウンのプロセスを管理できるのは、Makerガバナンスのみです。

十分な数のMKR投票者が緊急時シャットダウンの必要があると考える場合、MKR投票者もまた、MKRを緊急時シャットダウンモジュール(ESM)に預け入れることにより、即座に緊急時シャットダウンを起動することができます。これにより、ガバナンスセキュリティモジュール(アクティブな場合)が、実行前にシャットダウン提案を遅延させることを防止します。緊急時シャットダウンでは、定足数に到達次第、即座にシャットダウンが有効になります。

緊急時シャットダウンには3つの段階があります。

  1. Makerプロトコルがシャットダウンし、Vault所有者が資産を引き出します。

    シャットダウンが起動すると、それ以降のVaultの作成および既存のVaultの操作が停止され、価格フィードが凍結されます。フィードの凍結により、すべてのユーザーは権利を有する資産の時価額を引き出すことができます。事実上、Maker Vault所有者はVault内にある、債務の裏付けとして機能していない担保を直ちに引すことができます。

  2. 緊急時シャットダウン後のオークション処理

    シャットダウンが起動した後、担保オークションを開始し、特定の期間内に完了しなければなりません。その時間は、Makerガバナンスによって、担保オークションの最長期間よりもわずかに長いものと定められています。これにより、オークション処理期間の終了時には未完了のオークションがないことが保証されます。

  3. Dai保有者による残った担保の請求

    オークション処理期間の終了時に、Dai保有者は自身のDaiを使って、Daiの目標価格に基づいて計算された資産価値に対応する固定レートで担保を直接請求します。たとえば、緊急時シャットダウンの起動時に、ETH/USDの価格比率が200で、あるユーザーが1米ドルの目標価格で1000Daiを保有している場合、ユーザーはオークション処理期間後にMakerプロトコルから5ETHを請求できます。最後の請求を行うことができる時間に期限は設けられていません。Dai保有者は、担保ポートフォリオにある各担保タイプごとに保有数に相応する請求権を手に入れます。Daiの保有者は資産価値が目減りするリスクにさらされる可能性があり、これにより、目標価格である1Daiあたり1米ドルのレートで、保有するDaiの全額を受け取ることができないリスクがあることにご注意ください。これは、担保価値の低下に関連するリスクとともに、Dai保有者が残りの担保を請求する前に、Vault所有者が超過担保を請求する権利を持つことが原因です。結果的に発生する請求の優先順位などの、緊急時シャットダウンの詳細については、公開されているコミュニティのドキュメンテーションをご参照ください。

Makerプロトコルの未来:普及率の増加および完全な分散化

実現可能な市場規模

価格が安定した暗号通貨は、多くの分散型アプリケーションにとって重要な交換手段として機能します。そのため、Daiの潜在的市場は、少なくとも分散型ブロックチェーン業界全体と同じ規模です。しかし、Daiの将来性は、それをはるかに超えて他の業界にも及んでいます。

以下は、Daiステーブルコインの現在および当面の市場の抜粋リストです。

  • 運転資本、ヘッジ、担保付レバレッジ:Maker Vaultによってユーザーはパーミッションレスな取引が可能になり、Vault内の担保に対して生成されたDaiを運転資本に活用できます。これまで、Vault所有者がDaiを使用して追加のETH(担保と同じ資産)を購入し、完全に担保付きのレバレッジをかけたポジションを持つ多くの事例がありました。
  • 業者の支払い受け取り、国境を越えた取引および暗号通貨の送付:Daiを使用すると外国為替のボラティリティが軽減され、また仲介業者がないため国際貿易の取引コストが大幅に削減されます。
  • 慈善団体やNGO:透明な分散型台帳の技術を使用できます。
  • ゲーミング:ブロックチェーンゲーム開発者にとってDaiは最適な暗号通貨です。Daiを使用すると、ゲーム開発者は暗号通貨だけでなく経済全体も統合できます。 Daiの構成可能性により、ゲームは分散型金融に基づいてプレーヤーの新しい行動スキームを作成できます。
  • 予測市場:脈絡のない予測をする場合、ボラティリティの高い暗号通貨を使用すると賭けを行う際のリスクが高まるだけです。賭け手が、賭けに使用するボラティリティの高い資産の将来価格自体に対して賭けをする必要がある場合、長期の賭けは特に実行不可能になります。そのため、Daiステーブルコインは予測市場で使用される当然の選択肢になるでしょう。

資産拡大

MKR保有者が新しい資産を担保として承認した場合、その資産はDaiと同じリスク要件、パラメーター、および安全対策の対象となります(例:清算率、安定化手数料、貯蓄率、債務上限など)。

進化するオラクル

MakerDAOは、イーサリアムブロックチェーン上で信頼されているオラクルを実行した最初のプロジェクトです。その結果、多くの分散型アプリケーションはMakerDAOのオラクルを使用して、システムのセキュリティを確保し、最新の価格データを堅牢な方法で提供しています。このようにMakerDAOおよびMakerプロトコルが信頼を得ているということは、Makerガバナンスが分散型アプリケーションのニーズによりよく応えるために中核のオラクルインフラストラクチャーのサービスを拡張できることを意味しています。

結論

ユーザーは、Makerプロトコルにより、完全にブロックチェーン上に存在している、安定した価値の保存ができるDaiを発行できます。Daiは、中央集権的な参加者、または信頼できる仲介者や取引相手によって発行または管理されない、分散型のステーブルコインです。Daiは公平でボーダレスで、誰でもどこででも利用できます。

すべてのDaiは過剰担保によって裏付けされています。担保は、監査および公開されているイーサリアムスマートコントラクトに、個別に預けられています。インターネットに接続している人は誰でも、daistats.comで、いつでもシステムの健全性を監視できます。

数百ものパートナーシップおよび暗号通貨分野で最強級の開発者コミュニティと共に、MakerDAOは分散型金融(DeFi)運動の牽引役となっています。Makerは、今日の経済的エンパワーメントの約束を果たすために、ブロックチェーンの持つ力を解き放っています。

詳細については、MakerDAOのウェブサイトをご覧ください。

補足資料

Daiユースケースの利点および例

Makerプロトコルは誰でもどこでも、制限や個人情報の要件なしで使用できます。Daiが世界中でどのように使用されているのか、いくつかの例を以下に紹介します。

Daiはあらゆる人々に経済的自立をもたらします

世界銀行が発表したグローバル・フィンデックス・データベース2017によると、世界中の約17億人の成人が銀行口座を持っていません。5FDICによって行われた2017年の調査によると、米国だけでも約3,200万の世帯が銀行口座非保有者層または非銀行利用者層です。6すなわち銀行口座をまったく持っていないか、従来の銀行業務の代替(ペイデイローンまたは質屋ローンなど)を定期的に利用して家計を管理しています。Daiはそれらの人々一人ひとりに力を与えることができます。彼らに必要なのはインターネットへのアクセスだけです。

世界初の公平なステーブルコインDaiによって、誰でも場所や境遇に関係なく経済的自立が可能になります。たとえばラテンアメリカでは、Daiはアルゼンチンペソ7やベネズエラボリバルの通貨価値低下をヘッジする機会を個人や家族に提供しました。居住者が非常に高額な送金手数料を支払っている南太平洋のバヌアツ島では、英国を拠点とする非営利団体であるOxfamインターナショナル、オーストラリアのスタートアップ企業であるSempo、およびイーサリアムのスタートアップ企業のConsenSysが、エファテ島の200人の居住者に、地元の販売業者のネットワークへの支払いができるように、それぞれ50Daiを提供するという現金支援プログラムの試験運用に成功しました。8

自己主権型の暗号通貨生成

Oasis Borrowを使用すると、ユーザーはMakerプロトコルにアクセスし、Maker Vaultで担保をロックしてDaiを生成できます。注目すべきことに、ユーザーはDaiを生成するために、第三者の仲介者を利用する必要はありません。Vaultは個人や企業に、簡単かつ迅速に比較的低コストで資産の流動性を生み出す機会を提供しています。

自動的な貯蓄

Dai保有者はどこにいても、ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)追求の旅を力強く前進させることができます。前述のとおり、ユーザーがDai貯蓄率を活用することで自身の保有するDaiの価値に基づいてDSRを得て、さらにインフレから貯蓄を保護できます。

たとえば、ボブがDSRコントラクトで100,000 Daiをロックしていたとします。Makerガバナンスによって設定されたDSRが年間6%である場合、ボブは12か月で6,000 Daiを得ることができます。さらに、取引所およびブロックチェーンプロジェクトはDSRを独自のプラットフォームに統合できるため、暗号通貨トレーダー、起業家、あるいは既存の企業に、Daiの貯蓄およびDaiの運用資金を増やす新たな機会を提供します。この魅力的な仕組みによって、たとえばマーケットメーカーは、自身の利益を生まない資産をDaiで保有し、DSRにロックすることを選択できます。

高速かつ低コストの暗号通貨の送付

国境を越える送金は、商品やサービスの購入代の場合でも、単に家族や友人への送金の場合でも、サービス料や決済手数料が高い上に決済までの所要時間が長く、インフレによる苛立たしい為替問題をもたらします。Daiステーブルコインは、人々がその価値と効率性に信頼を置いているため、交換手段として世界中で活用されています。

暗号通貨を送付するユーザーは、次のような面でDaiの恩恵を受けます。

  • 低コストの国内および国際暗号通貨送付:Daiは、高額の銀行手数料および電信送金手数料に代わって、安い Gas(ガス) Gas(ガス)は、ユーザーがイーサリアムブロックチェーン上で取引を行うために支払うべき手数料を決定する測定単位です。すべての取引で、若干のGasが必要です。 料金を使用するため、即座にコストを節約できます。コストが低いため、より頻繁な取引が可能になります。
  • 年中無休のサービス:Daiは銀行のように営業時間に依存することがありせん。Makerプロトコルへは24時間365日アクセス可能です。
  • 使いやすいオンランプとオフランプ:ユーザーは、法定通貨とDaiを交換する多くの法定通貨オンランプまたは法定通貨オフランプを活用できます。これらの選択肢により、ユーザーは法定通貨と暗号通貨の世界の隙間を埋め、保有するDaiを簡単に現地通貨で現金化することができます。
  • セキュリティおよび信頼性の向上。ブロックチェーンは、レベルの高いセキュリティを提供し、消費者に信頼を与えます。

ボラティリティの高い市場での安定性

前述のとおりDaiは利用しやすい価値の保存手段であり、強力な交換手段でもあります。そのため、トレーダーをボラティリティから保護してくれます。たとえば、Daiはトレーダーに、ポジション間をスムーズに移動し、市場での活動を続けることができる簡単な方法を提供しています。そのため現金化してオンランプまたはオフランプのサイクルを繰り返す必要はないのです。

エコシステムの原動力およびDeFiの構築者としてのDai

ステーブルコインとしてのDaiの価値に気づくユーザーが増えるにつれて、より多くの開発者が、自身がイーサリアムブロックチェーン上に構築するdapp(分散型アプリケーション)にDaiを取り込んでいくようになります。このようにDaiは、堅牢なエコシステムのさらなる強化に役立っています。要するにDaiによってdapp開発者は、投機的資産を使用して商品やサービスを売買したくないユーザーに対し、安定した交換方法を提供できるのです。

さらに、イーサリアムエコシステム内でGas(ガス)代金の支払いにDaiを使用できるため、イーサリアム(ETH)の代わりにDaiを受け入れるDeFi dappを作成することにより、開発者はユーザーにスムーズなオンボーディング体験や全般的により良い体験を提供できます。

用語集

システムおよびコミュニティのリソース

注釈


  1. 分散型自律組織(DAO)は、イーサリアムコミュニティでは特定のミッションまたはプロジェクトを中心とした、主としてソーシャルおよびテクニカルなコミュニティであると理解されており、必ずしも従来の企業形態を意味するわけではありませんのでご了承ください。

  2. https://ethereum.org/

  3. https://www.jpmorgan.com/global/news/digital-coin-payments

  4. https://libra.org/en-US/wp-content/uploads/sites/23/2019/06/LibraWhitePaperenUS.pdf

  5. https://globalfindex.worldbank.org/

  6. https://www.fdic.gov/householdsurvey/

  7. https://slideslive.com/38920018/living-on-defi-how-i-survive-argentinas-50-inflation

  8. https://www.coindesk.com/oxfam-trials-delivery-of-disaster-relief-using-ethereum-stablecoin-dai